ヘブンズ俱楽部
地域とともに育む、妥協のないワイン造り
2025年6月、長野市篠ノ井有旅(うたび)の地に、地域待望のワイナリーが誕生しました。その名も「有旅ワイナリー」。長野市としては初めてのワイナリーであり、醸造責任者を務めるのは田中啓(たなか・けい)さんです。今回は田中さんに、有旅ワイナリー誕生までの道のりや、ワイン造りに込めた思いを伺い
Q:田中さんはもともとワインの世界に関わっていたのですか?
田中さん:はい。私は長野市出身で、もともとはソムリエとしてワインバーで働いていました。生産者の方とお話しする機会が多く、その中で「いつか自分も地元でワインを造りたい」と強く思うようになったんです。
ソムリエとして働く中で感じたのは、ワインは単なるお酒ではなく、その土地の風土や生産者の思いが映し出される“農産物”だということです。だからこそ「自分の思うがままに、妥協のないワインを造りたい」という気持ちが高まり、たくさんのご支援いただき創業に向けて動き出しました。
Q:ワイナリーの場所に篠ノ井有旅を選んだ理由は?
田中さん:畑とワイナリーが隣接していることが理想でした。有旅の土地は標高、日当たり、水はけ、そして何より景観、風通しが素晴らしい。すべてがぶどう栽培に適しており、この土地に惹かれました。
Q:2023年に「長野市ワイン・シードル特区」が認定されましたね。
田中さん:そうなんです。この特区によって、小規模でも年間2,000ℓ以上の果実酒を造れば製造免許を取得できるようになりました。従来の基準6,000ℓに比べて大幅にハードルが下がり、地域でのワイン造りが現実的になったんです。
その制度を活用して、2025年に「有旅ワイナリー」をオープンできました。長野市として初のワイナリーであり、大きな挑戦でもあります。
Q:どんなぶどうを栽培しているのですか?
田中さん:代表的な品種は「メルロー」「シャルドネ」です。メルローは赤ワイン用のぶどうで、柔らかい口当たりと果実味が特徴。シャルドネは白ワインの王道ともいえる品種で、育つ環境によって味わいが大きく変化します。
また、長野ならではの気候に合う「ソーヴィニヨン・ブラン」なども少しずつ試験的に栽培しています。
Q:初心者にもわかりやすくいうと?
田中さん:赤ワインは“コク”や“渋み”が楽しめるもの、白ワインは“爽やかさ”や“果実の香り”が楽しめるもの、と考えるといいかもしれません。その違いを生み出すのが、ぶどうの品種と土地の条件なんです。
Q:造られているワインについて教えてください。
田中さん:現在は赤・白ともに少量生産を行っています。赤ワインはメルローを主体に、果実味がありながらも余韻の長い、食事に合わせやすい味わいを目指しています。白ワインはシャルドネを中心に、爽やかな香りと飲みやすさが特徴です。
Q:ワイン造りで特に大切にしていることは?
田中さん:「ぶどうの力を最大限に引き出すこと」です。例えば、収穫の前に余分な実を間引いて(摘果)、残った実に栄養が集中するようにします。さらに収穫後も一粒ずつ丁寧に選別し、傷んだ実や未熟な実を取り除きます。手間はかかりますが、これが繊細な味わいにつながります。
Q:地域の方々も関わっているそうですね。
田中さん:はい。「有旅ワイナリー倶楽部」という形で、地元の皆さんに摘粒や収穫を手伝っていただいています。最初はワインに詳しくない方も多かったのですが、今では「一緒に地域を盛り上げたい」という思いで協力してくださっています。
私自身、ここまで地域の方に応援していただけるとは思っていませんでした。本当にありがたいですし、造ったワインを「篠ノ井有旅の誇り」として喜んでいただけることが一番嬉しいですね。
Q:今後の目標は?
田中さん:まずは地域の皆さんに喜んでもらえることが最優先です。そのうえで、いずれは「世界に羽ばたく有旅のワイン」を目指していきたいですね。
有旅ワイナリーは長野市篠ノ井有旅にあります。畑に囲まれた静かな環境で、直売所では限定ワインを購入できます。イベントや見学会も順次開催予定なので、公式HPで最新情報をご確認ください。
長野市初のワイナリー、有旅ワイナリー。地域とともに育まれる一杯を、ぜひ体感してみてください。